新しい弔いのかたち ~「墓じまい」について~

「墓じまい」について「長男は家に残り、先祖代々のお墓を守り、それを自分の子孫に受け継いでいくもの」かつて当たり前だったこのような価値観や考え方というのは、現在ではそれほどメジャーなものではなくなっています。

高度経済成長以降、交通機関の発達により多くの人が地元を離れて就職するようになりました。大学進学率も50パーセント程度となった今、県外の大学を卒業してそのまま就職、地元には盆暮れ正月に帰るだけ、という人も多いのではないでしょうか。そしてそのまま地元に帰ることなく結婚して家庭を持ったり、あるいは独身のままで過ごしたりというスタイルも決して珍しくはありません。

「生き方」に多様性が見られるようになった現在、「死に方」や「供養の仕方」もまた多様化しています。そしてそのなかの一つに、「墓じまい」や「新しい埋葬方法」があります。

墓じまいは簡単じゃない?「墓じまい」という考え方現在でも「亡くなったら通夜・告別式を行い、火葬してお墓に納骨する」というかたちはメジャーなものです。しかし前述したように、「そのお墓を守る人がいない」「子どもが全員独身」「子ども世代まではみてもらえるけれど、それ以降はどうするべきか」ということに悩む人もいます。そのため現在では、「墓じまい」という考え方も出てきています。

これは、「現在のお墓をしまって、ほかのところ(たとえば祭祀継承者が住んでいるところの近辺など)で祀る、というものです。この方法ならば、「供養をしたい気持ちはあるが、現実問題として頻繁には通えない」「墓が荒れてしまう」というような悩みを解消できます。

しかしこの「墓じまい」は良いことばかりではありません。墓じまいを経験した人のうちの35パーセントが何らかのトラブルを経験した、と答えているデータがあるのです。これは「株式会社まごころ価格ドットコム」が出したもので、墓じまいを行った100人を対象としたアンケートからわかりました。特に多かったのが、「親族間でのもめごと」です。

「墓」というのは、それを受け継ぐ家族だけのものではありません。そこに埋葬されている人は、だれかの妹であり、だれかの兄であり、だれかの祖母であり、だれかの叔父かもしれません。

たとえば、「お墓があるのは愛知県。息子は東京に住んでいるしもう戻ってくることはないから、東京に納骨場所を移したい。しかし母の妹で、非常に母を慕っていた叔母は愛知県に住んでおり、強行に反対している」というような事例もあるでしょう。

また、「新しい納骨場所が見つからない」「墓石の解体や、離檀するときのお金がかかって困っている」などのトラブル例もあります。墓じまいというのはたしかに有効な選択肢のうちの一つです。ただ、それにまつわるさまざまなトラブルの可能性も事前に把握しておいた方がよいでしょう。

出展:PRTIMES(株式会社まごころ価格ドットコム)
「墓じまい3割にトラブル!親族間のもめ事が大きな障害に!」

それ以外の選択肢も考えたい「将来的に周りに迷惑をかけるのも嫌だから、墓を持たないという選択肢をとりたい」「最後の居場所は自分で決めたい」「母は周りに気を使ってばかりの人生だった。最後は1人でゆっくりさせてあげたい」「お墓を建てるお金が...」。今までどおりお墓に入ることや墓じまいも一つの選択肢ならば、「墓を持たない」というのも一つの選択肢です。

納骨堂に納める「墓を持たない」という選択肢にはいろいろな方法があります。まず、納骨堂に納めるやり方。

全天候に対応しており、いつでも清潔な空間でお参りできるというのが大きなメリットです。

今から紹介する選択肢のなかでは、比較的お墓に近い感覚で接することができるため、不安も少ないと思います。

樹木葬桜や紅葉、ハナミズキなどのシンボルツリーの周りに遺骨を埋葬する「樹木葬」も一つのやり方です。

自然に還ることのできる埋葬方法であり、「その人が亡くなっても、その人とともにある木はずっと成長していく」という感覚を味わうことができます。

海洋散骨海に散骨する「海洋散骨」も、もう一つの選択肢です。海にお骨を流し、花を手向け、お酒を注ぐ...。

海を愛していた人、自然に還りたいと考える人にとっては、生命の生まれ故郷である「海」は、最期に還る場所として非常に相応しいものです。

最近では「宇宙葬」という供養方法もあります。これは遺骨の入ったカプセルをロケットにのせ宇宙に放ち、散骨するというものです。1997年に初めてアメリカで行われ、日本でもサービスを提供する会社が現れています。

手元供養散骨する場合、遺骨を手元に残しておけないという問題がありますが、遺骨の一部を手元に残し自宅で供養したり、遺骨をジュエリーにして身に着けたりする「手元供養」というやり方を選ばれる方も多くなっています。

ただこれらも墓じまいと同じく、親族間での感情の軋轢が起こる可能性はあります。事前にしっかりと話し合ってから実行しましょう。

このように、弔いにはさまざまなかたちがあります。先祖代々の墓をどうするか、そして自らの最後はどうするか、家族や親族、そして自分自身と話し合って悔いのないよう決めていきたいものです。